20世紀後半、世界の近代化をエネルギー供給面から強力にバックアップしてきた存在が原子力エネルギーです。21世紀に入り、福島第一原発の事故によって主役の座からは降りることになってしまいましたが、二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギーとして、脱炭素社会に向けて再び注目を集めています。
足元では原子力発電所の再稼働は難航し、新設は可能性も暗い状態だと思います。既存の原子力発電所で将来どの程度発電量を賄っていけるのか?2050年に向けて国はどんな構想をもっているのか?このあたりに着目し。原子力エネルギーについてまとめます。
原子力エネルギーとは
原子力エネルギーを積極的に使うかは世論を二分しています。以下のようにメリット・デメリットありますね。
- 〇:CO2を排出しない、安価
- ×:原子炉事故の脅威、放射性廃棄物の安全な保管
原子力エネルギーに対してどういうスタンスで臨むべきでしょうか、 技術革新によってデメリットを克服できるかもポイントになりそうです。福島第一発電所の事故では実際に16万人が避難することになり、大きな被害が出ました。
- もっと原発を建てる
- 原発は閉鎖すべき
- 核融合による発電を目指す
日本の原子力エネルギーのに対する方針
安全性に最大限配慮した再稼働推進

https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/025/pdf/025_008.pdf
原子力エネルギーの観点からみますと、現在発電量の2%に過ぎない割合を、30年時点で20~22%に引き上げようとしています。つまり、今後再稼働を進めていくということになります。
そのためのポイントは三つにまとめられそうです
- 安全設計強化:事故の原因となりうる災害の想定範囲を拡大し、安全設計を強化
- 重大事故対策:事故が万が一起きたとしても被害を最小限に抑える対策
- バックフィット:最新の技術的知見が更新されるたびに、全ての原発に反映

https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/025/pdf/025_008.pdf
さて、ここで疑問に思うのは、果たして今2%しかない原子力エネルギーを20%まで増やすことが可能なのだろうか?ということです。昨今の状況を踏まえると、再稼働ですら相当ハードルが高くなっているので、新設は検討もできない、というのが正直なところだと思います。
では、今ある原発をフル活用するとしてどのくらい達成可能かシミュレーションしてみました。
いくつか前提条件を確認しておきます。
日本全体のトータルの発電量
経産省の長期エネルギー見通しを見ると、2013年と2030年のトータル電力需要はほとんど変わりません。よって、原子力発電量の割合を求める上での分母である総発電量は2030年の10650憶kWhを全区間(2019~2050まで)一定と仮定します。

https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/pdf/report_01.pdf
原発の設備利用率
原発の設備利用率はどのくらいか調べてみると、下図のデータより、2018年実績で稼働中のプラントを平均すると70%でした。

https://www.jaif.or.jp/190115-1
従って、例えば100万kWの出力の原発があった場合、その発電量は次のように計算できます。
100万kW×24h×365day×70%=87.6憶kWh
原子力発電所の一覧と稼働状況
現在の原子力発電所は建設中のものも含めると(計画中は除く、建設中は含む)60基あります。

https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/001/pdf/001_02_001.pdf
これらは以下のように分類できます。
- 再稼働:安全審査をパスして運転再開している原発
- 設置変更許可完了:再稼働のための審査をパスした原発(再稼働はまだしていない)
- 審査中
- 未申請
- 廃炉予定、廃炉作業中
このうち、「廃炉予定・作業中」のものはもう動きませんので、カウントできません。「未申請」のものは申請していないため、動く可能性は限りなく低いですが、ポテンシャルはゼロではないと言えます。よって含めるケースと含めないケースを考えました。
「審査中」のものは、全て動くと大胆な仮定をしましょう。
震災後設けられた「40年ルール」
原発の運転期間を原則40年とするルールを福島の事故後、民主党政権により導入されました。運転延長は「例外中の例外」(当時の細野豪志原発担当相)と強調されていました。しかし、原子力規制委員会は既にいくつかの原発の運転延長を認めており、このルールは形骸化しています。
この40年ルールを守って40年で原発を廃炉にしていった場合と、20年延長して60年で廃炉にしたケースと二種類の場合でシミュレーションしました。

原子力20%は無理ではないがかなり厳しい
下図から明らかなように、30年時点で原子力の割合22%というのは、新設を除いたら考えうる最大ケースであることがわかります。全て40年で廃炉にせず、かつ現在未申請のものも含めて全て動かすという状況です。

未申請の原発が全部動かなかったとして、現在審査中の原発が全て再稼働、かつ60年まで稼働できるとすると、16%程度です。個人的には意外と多いなと思いました。
再稼働にあたっては、安全基準を満たせるかだけでなく、地元の合意形成など政治的要因も大きいため、コントロールが難しい問題ですが、40年ルールが形骸化していくとすれば、頑張って再稼働を推進すれば原子力の割合を10%程度まで上げることは可能ではないかと思いました。
2050年の原子力エネルギー利用目標
火力と合わせて30~40%
菅首相が20年10月に表明したカーボンニュートラル2050、その具体的な実現に向けた戦略が「成長戦略会議(20年12月開催)」にて示されました。
成長戦略の中で原子力エネルギーについて記載されていることを抜粋します。
確立した技術。安全性向上、再稼働、次世代炉。
➜ 可能な限り依存度は低減しつつも、引き続き最大限活用
➔ 安全性に優れた次世代炉の開発
そして議論を進めていく上での参考としつつ以下のように2050年において「原子力・CO2回収
前提の火力発電30~40%程度」という数値が出されました。

エネ庁:2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 令和2年12月
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012-1.pdf
上述のように、新設をしないと2050年には、ある程度再稼働が進んだとしても5%を切ってくるような水準です。現在全く再稼働の見込みが立っていない発電所まで稼働したとして15%という水準なので、これを全て含め、半分を原子力、半分を火力で担おうとしているのかもしれません。
政治的な配慮からか、やはり新設については言及されていません。
原子力エネルギーの技術開発の方向性
成長戦略の中で原子力産業に関しては以下の3つの技術要素を取り上げております。現在主流の軽水炉型の原子力発電から、次世代炉と呼ばれる技術への転換を目指していくということのようです。
いずれもまだ実用化までは課題も多い技術ですが、脱炭素電源として主流の太陽光や風力は変動が大きくベースロード電源としては心もとないため、実用化されれば脱炭素社会に向けて大きな一手となりそうです。
小型炉 (SMR) | ・海外で先行する規制策定を踏まえ、技術開発・実証に参画。 ・日本企業がプロジェクトの主要プレーヤーとして参画し、脱炭素技術であるSMRの安全性の実証に貢献。主要サプライヤーの地位を獲得。2020年代末の海外でのSMR初号機開発後、海外連携によりグローバル展開と量産体制を確立。 |
高温 ガス炉 | ・高温工学試験研究炉(HTTR)で950℃(世界最高水準)50日間の高温連続運転を達成(JAEA)し、安全性を実証。 ・HTTRを活用し、安全性の国際実証に加え、2030年までに大量かつ安価なカーボンフリー水素製造に必要な技術開発を支援。 |
核融合 | ・国内施設を通じた研究開発や核融合実験炉(ITER)建設に向けた製造・試験、各種要素技術の開発が必要 ・2030年頃の実用化を目指す米・英のベンチャーと日本のベンチャー・メーカー等 が連携を加速。 |
さて、今回は原子力エネルギーと題して、現在の原子力発電所の状況とそこから見た将来の発電状況、そして2030年、2050年と国の原子力政策の全体像を見てきました。
政治的配慮からか、電源構成における原子力の割合は0-40%と幅がありますが、再稼働を進めながらもゆるやかに耐用年数を越えていくことで原子力発電所の数は減っていきます。
従来の大規模な軽水炉発電所の新設は今後も厳しい状況だと予想されますが、安全性が高く海外では実用化も見えてきた小型炉SMRなどの次世代炉が補う形で2050年に向かって進んでいくと思われます。
今後議論が深まる中でもう少しはっきりしてくるのではないかと思われます。
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