電力やガスのネットワークは社会の隅々までエネルギーを行きわたらせる役割を担っています。これらのインフラは「グリッド」と呼ばれ、エネルギー転換を進める上では要となる存在です。
前回は以下の記事で送電線がどのように作られているのか、また欧州は再生可能エネルギーの比率が高いですが、日本と比較してどう違うのかといった部分を見てきました。
昨今は太陽光発電を中心に分散型の再生可能エネルギーが普及拡大を続けています。加えてこれから数十年という将来を見ると、大規模な洋上風力発電の計画が進んでいます。そうした中、従来の大規模発電所から消費地へという電力の大きな流れも変えていかなければなりません。
再生可能エネルギーを最大限利用していくため、日本で進む送電線の増強計画や既存の送電線を有効活用するノンファーム型接続についてまとめたいと思います。
南北に偏在する再エネを中央へ送電する増強計画
送電線の将来計画「マスタープラン」
再生可能エネルギーが大量導入されていく中で送電線はどう変わっていくのでしょうか。これまでのような一般送配電事業者による個別対応の系統増強(プル型)から、ポテンシャルを見据えた計画的な対応(プッシュ型)へ方針転換がなされました。
そうした中で将来の電源の変遷を念頭においた送電線の増強計画を検討しているのが、電力広域的運営推進機関におけるマスタープランを検討している委員会です。その中間整理での全体像が以下になります。
再エネ比率4割をターゲットにしたとき、追加される大きな電源リソースは洋上風力になります。この洋上風力が北と南に偏在するため、これを消費地の関東近郊に送電するための増強が必要になってきます。
こちらの図の左図は、洋上風力のポテンシャルを表しており、円グラフが大きいほどそのポテンシャルが大きいことを示します。また右図はケーススタディにおいて、洋上風力により発電された電力を関東へ送るイメージです。送電線全体としては、このように、南北から中央への大きな流れが今後強まっていくと思われます。
系統増強の費用を賄う賦課金の考え方とインセンティブの設定
送電網の増強には、多額の費用がかかります。これまでの基本的な考え方は増強する送電網が立地する場所の一般送配電事業者がその費用負担を行う形でした。しかし、全国に広がる再エネを離れたエリアで使用する仕組みを構築するべく、その費用負担について新たに「賦課金方式」が導入されました。
これは、送電網を増強することによる便益に相当する費用については、電気料金の一部(託送料金)として全国で均等に回収する仕組みです。この便益というのは、具体的には「電力価格の低下」と「CO2の排出削減」が該当します。
また発電と小売が自由化して競争によるコスト競争が発生している中で、送配電については総括原価方式が維持されているため、競争原理が働きません。その中で、下図のようにコストダウンと効率化により想定以上の削減ができた場合は利益とできるようインセンティブを設定したレベニューキャップ制度が導入されました。
送電線の空き容量を最大限活用するノンファーム型接続
先着優先かつ容量の半分までしか使えないルール
送電線は電力を流せる容量に制約があります。そのため、発電所を建設するときには、発電した電力を流せるよう送電線の容量を確保する必要があります。そしてこの容量は先着優先のルールになっており、新たに再エネ電源を開発しようと思ったとしても、送電線の空き容量が無く開発ができない(容量を確保するためには追加工事が必要で莫大なお金がかかる)ということが起こるのです。
またもう一つの容量に関して重要なのは、送電線の容量のうち半分は緊急用に確保し空き容量にしているということです。これは送電線自体が二重化されており、万が一片方に故障が起こった場合(N-1故障)でも空けてある送電線を活用することで送電を継続できるようになっています。
従来のこうした送電線の運用方法は、再生可能エネルギーという不安定電源を組み込むことを考えた場合非常に不都合が生じます。これは従来の大規模電源(火力・原子力等)の設備利用率が70%を超える高い水準であるのに対し、再生可能エネルギー(太陽光・風力等)の設備利用率が30%を下回ることに起因します。(以下の記事で各電源の設備利用率については引用しています)
設備利用率が30%しかないにも関わらず送電線の空き容量を専有しなければ電源として組み込めない仕組みになっているため、送電線の空き容量が一杯で接続ができないが実際にはスカスカという状況が発生してしまったのです。
既存の送電線をフル活用する
そこで順次採用されていく新方式が「ノンファーム型接続」と「N-1電制」です。以下の①、②は先程の図に対応しています。
従来の運用 | 見直しの方向性 | 実施状況 | 接続可能容量 | |
①ノンファーム型の接続 | 通常は想定せず | 一定の条件(系統混雑時の 制御)による新規接続を許容 | 2021年1月13日から全国の空き容量の無い基幹系統に対して適用が開始 | 約590万kWの空き容量拡大を確認※1 |
②N-1電制 緊急時用の枠 | 半分程度を確保 | 事故時に瞬時遮断する装置の設置により、枠を開放 | 2018年10月より自らが電制対象の特別高圧以上の電源に先行適用を開始。 別の電源を電制することにより、その機会損失費用を事後的に精算する「N-1電制本格適用」は、2022年度中の導入を目指し、検討中。 | 約4040万kWの接続可能容量を確認※1 |
緊急時に送電できないことを許容する「ノンファーム型接続」
「ノンファーム型接続」とは、送電容量を確定(ファーム)せず、送電線の容量が逼迫したときには出力抑制を行うことを前提に系統接続を許容するという接続方法です。
最大容量で送電線を確保するのではなく、一時的な出力制限を前提とした接続を許容することで、より多くの再生可能エネルギーを既存の系統の中に組み込むことができるようになり、これまで系統容量の制約で開発が難しかった電源開発の促進にも繋がります。
出力制限を代替する仕組み「N-1電制」
こちらは少しわかりにくい仕組みなのですが、緊急用に空けてある半分の送電線を活用するための新ルールです。先程説明したように、送電線は故障したときのバックアップとして、2回線を用意して運用を行っています。この運用では1回線分は常に空けておく必要があるのですが、1回戦容量を超える分を平常時に運用するためには、故障時においては制限することを前提に接続させれば良いということになります。これが「N-1電制」です。
これを行うために、電制装置という、故障時に電源を遮断するための装置を取り付けます。故障時に停電を起こさず、送電線に負担をかけないためには、瞬時に容量を超える電源は遮断する必要があるからです。
この遮断というのは実はどの電源でもそう簡単にできるわけではなく、実運用状は電制を行える電源というのは限定されます。そのため、制限を受けることを前提に接続された電源とは別の電源を抑制することになります。しかしこうなると本来は優先的に発電できるはずの電源がその制御しやすさ故に制限を受けることになるため、公平な費用負担となるように後から費用補填を行う仕組みを導入します。
ややこしい運用ではありますが、既存の送電線を単純に増強するのではなく、かつ緊急時でも問題なく送電できるレジリエンスは確保しつつ、変動性の再生可能エネルギーをより多く導入しその発電電力を流通させていくための仕組みが順次実証、本格運用されていっております。
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