一般家庭では、電力のみならずエネルギー総量としてどのくらい使っているのか、これに対して、太陽光発電はどのくらい発電しているのか、季節ごとに双方を比較してみます。そのうえで、年間を通して太陽光で一般家庭のエネルギーを賄うことは可能なのか、考えてみたいと思います。
今回は発電量と消費量のバランスという観点で掘り下げていきますが、前回はエネルギー密度の観点から、太陽光発電で一般家庭のエネルギーを全部賄うにはどれだけ太陽光パネルが必要か、以下の記事で考えてみました。
太陽光発電の発電量と一般家庭の需要量のデータ
ある程度時系列のデータがないとバランスの議論は難しいので、データを引っ張ってきます。
太陽光パネルの発電量のデータ
2011-2013年と少し前のデータにはなりますが、毎日の発電量のデータを公開しているHPを発見したのでこちらを参考にさせて頂くことにします
<S邸発電データ:シャープ ND-160AW 25枚 4KWシステム>
3年分のデータを見比べると、年ごとの総発電量[kWh]に目立った違いは見られません。今回2013年のデータを採用します。
年 | 発電量[kWh] |
2013 | 3,325 |
2012 | 3,244 |
2011 | 3,194 |
こちら4kWの太陽光パネルのため、2013年ベースで計算すると、設備利用率は9.5%と求まります。一般的に12%ほどで見込んでいると思うのでやや小さいと言えると思います。
月毎の家庭の消費エネルギー
エネルギーの消費スタイルは家庭ごとに違うため一般化が難しいですが、季節変動という因子はすべての家庭で同じように起こると考えられます。
以下は寒冷地を除く月ごとの平均消費エネルギーを示しています。ここから明らかなのは、電力の消費量は年間を通じて大きく変動しないものの、冬場は暖房用の化石燃料の消費が大きいということです。
需要と供給の月ごとのバランスは最悪
上で見つけたデータを元にした、太陽光による月の合計発電量と、月ごとの一般家庭の消費エネルギーを比較すると、見事な逆相関が見えてきます。
以下のデータにおいて、需要と発電のデータを示していますが、太陽光のパネルの枚数で発電量は調整が効くため、双方の大小関係は気にせず議論を進めます。
オレンジの太陽光による発電量を見てみますと、日照量が多い、4-9月の発電量が多く、日照量が減る10-3月は発電量が少ないことがわかります。一方で需要量の方は、電力とそれ以外を足した総量は、11月から急増し、12-1月がピーク、3-4月と減少し夏の間は少ないということがよくわかります。
見事な逆相関でバランスさせる難しさを痛感させられます。これは家庭用のエネルギーを賄う上での太陽光発電の相性の悪さを表していると言えます。
過剰積載で対応すると3.5倍のパネルが必要
需要と発電量のバランスが悪いことがわかったわけですが、なんとか成立させる方法を考えます。
需要量と一致する発電量を求める
まず需要側で年間必要な発電量はどのくらいかというと、先のデータを見直すと以下のように月平均約1000kWh(1MWh)であることがわかります。
月 | 需要 [kWh] |
1 | 1,717 |
2 | 1,627 |
3 | 1,337 |
4 | 1,104 |
5 | 872 |
6 | 651 |
7 | 637 |
8 | 755 |
9 | 674 |
10 | 697 |
11 | 930 |
12 | 1,395 |
合計 | 12,395 |
平均 | 1,033 |
次に発電側は、発電効率が9.5%なので、太陽光の出力としては、月に1033kWh発電するためには15.1kW必要だとわかります。発電効率は立地によってもう少し良くなるケースも多いかもしれませんが、今回はこのまま進めます。
発電量(月) | 1,033 | kWh |
稼働率 | 9.5% | |
太陽光出力 | 15.1 | kW |
実は先ほどの図1は太陽光の出力を15.1kWにした場合のグラフでした。つまり棒グラフと折れ線グラフは平均すると一致するということです。
必要な太陽光パネルはどのくらいか
ではどのくらい太陽光発電のパネルを置けばバランスするか考えてみます。太陽光の発電量の方は日毎に発電量がわかるので、月の消費量の1/30を日の消費量とみなし、これを下回る日が最高何日あるか計算してみました。
これを見てみると、太陽光パネルを50kW分くらい必要なのではないかと思います。年間で最も電気が足りないときに、3日ほど発電量が消費量を下回るくらいなので、別の方法で調整を試みるなり、このときばかりは消費量を抑えるなりやりようが考えられるからです。そしてこの数字をゼロにしようとするのは現実的ではありません。
50kW以上出力を増やしてもあまり変化はありませんし、これ以上減らすと1月は一週間以上足りない日が続く瞬間が出てきてしまいます。
50kW / 15.1kW = 3.3倍
必要なエネルギー量の3.3倍発電しないといけないことがわかりました。
これで一年中一日の発電量としては、必要量を超えている計算になるのですが、当然瞬間瞬間では過大ことがほとんどでバランスさせるのに蓄電池などが必要になります。
冬場はエコキュート(ヒートポンプ)を活用する
ヒートポンプの原理
暖房に関して、ガスや灯油によるストーブや給湯器よりも、電気によるエアコンやヒートポンプの方がエネルギー効率の観点では強みがあります。
ヒートポンプは、動力として必要な圧縮機のポンプのモーターの動力1に対して、3、4といった熱エネルギーを得ることのできる画期的なシステムです。
なぜそんなことが可能なのかと言うと、「熱を移動させることに動力を使っているから」というのがシンプルな回答と言えます。
ヒートポンプとは、温度の低い所から高い所に移動させる機械です。
外部にある低温の熱を昇温して室内に移動させるには、蒸発、圧縮、凝縮そして膨張のサイクルを利用します。ヒートポンプ内は、低沸点の冷媒(代替フロンなど)が熱移動媒体として循環しています。暖房時には、低温で液状の冷媒は、蒸発器(熱交換器)の場所で低温の熱源から熱を獲得し気化します。次に、気化した冷媒は圧縮器で加圧され、昇温されます。昇温したガス状の冷媒は熱交換器に移動し、そこで熱を貰った温水が室内へ供給されます。温水に熱を奪われた冷媒は、その後ガスから液体に戻り、膨張弁の所で冷却され、再び最初の蒸発器に戻ります。冷房の時は、暖房と逆サイクルとなります。
ヒートポンプの原理
http://www.geohpaj.org/introduction/qa/2-1
熱は基本的に高温の方から低温の方に流れますが、ヒートポンプはその逆です。
ポイントは熱を運搬するために蒸発させているということです。お風呂から上がったとき、濡れたままの状態でいると体が冷えますよね、これは水が蒸発して熱を持っていくからです。
水は大気圧、100℃において液体の状態では419.1[kJ/kg]のエネルギーを持ちます(単位あたり)。これが気体の状態では2676.0[kJ/kg]ものエネルギーとなるのです。つまり蒸発するときにこれだけのエネルギーを持っていくことになります。
極低温で蒸発する冷媒を用いることで、低温側で蒸発させると同時に熱を持たせ、圧縮することで液体に戻しながら熱を伝えるという機構です。
エアコンや冷蔵庫ができたのはまさにこのヒートポンプの仕組みが実用化されたからに他なりません。
ヒートポンプのエネルギー効率
ヒートポンプを使うとどのくらいエネルギー効率がいいのか。下図が参考になります。
COPとAFPの定義は以下、基本的には得られたエネルギー÷投入エネルギーという理解で良いようです。
- COP:冷却・加熱能力÷定格消費電力
- 冷暖平均COP:(冷房時COP+暖房時COP)÷2
- 中間期COP:外気温DB16/WB12℃、水温17℃、沸き上げ温度65℃
- APF:1年間で発揮した能力÷1年間で必要な消費電力
- 年間給湯効率[JRA]:給湯に係わる熱量÷必要な消費電力
- 年間給湯保温効率[JIS]:使用給湯と浴槽保温熱量÷必要な消費電力
https://www.hptcj.or.jp/study/tabid/104/Default.aspx
エアコンは投入エネルギーの7倍もの熱エネルギーを、そしてエコキュートは4倍程度のエネルギーが得られることがわかります。
ただし、外気温が低いほど得られる熱が少なくなり効率が落ちる点は注意が必要です。寒冷地では向かないでしょう。
熱によるバッファーとしても使える
長々と説明してきたのは、ヒートポンプを用いたエコキュートならば、太陽光発電のばらつきを平準化できると考えているからです。
単に効率よく冷暖房をするのならばエアコンで良いです。しかし今考慮しなければならないのは、太陽光発電は発電のタイミングが選べず、何かしらの方法で発電タイミングと電気を使うタイミングをずらす必要があるということです。
そこで温水という形で熱を貯めておくのが良いのではないかと考えます。
太陽光がガンガン発電するタイミングではヒートポンプによって温水を作っておき、必要に応じて使います。熱は断熱をしっかりしておけば何時間、下手したら日単位で貯めておくことができるので電気の状態で貯めるよりも遥かに経済的です。
また冬場のエネルギー消費量が多いのは暖房需要が大きいわけですが、床暖房なり、温水配管による暖房にすることでヒートポンプによって作った温水を活用できますし、化石燃料を燃やすより前述のように効率がよいため、消費エネルギーを減らせる可能性があります。
蓄電池はある程度必要
熱による蓄電という手段をヒートポンプによって実現する、暖房が全体のエネルギー消費の大きな部分を占めるため、これ自体はマストだと思っているのですが、それでも熱から再び電気には変えられません。低温の熱から電気に変えることは非常に効率が悪く最も避けたい自体です。
そのため蓄電池が必要になってきます。これは熱以外の用途で必要な電力量を1日の中で平準化できるだけの量が最低限必要だと思われます。冒頭紹介した前回の記事では、4kWの太陽光パネルに対して、6kWhの容量が経済的に蓄電池を導入できるストレージパリティのラインだと述べました。
今回15kWの太陽光パネルが需要と一致するパネルのため、少なくとも22.5kWhのサイズの蓄電池は経済的に導入が出来そうです。これだけあれば一日に必要な電力分は十分賄えそうな気がします。
一年に数日これだと電力が逼迫する瞬間が訪れそうですが、この時は前後で電力消費量を抑えるなりしてしのぐのはやむを得ないという考えです。EVがもしあれば非常用の電源として使えます。
まとめ
太陽光を一次エネルギーのすべての供給源として家庭のエネルギーシステムを成り立たせる方法を考えてきましたが、太陽光の年間発電量の推移が家庭で必要なエネルギー量の推移と逆相関になるというのが致命的です。
これでは膨大な太陽光パネルを導入する必要があり、非常に経済性が悪いです。太陽光パネルの大幅なコストダウン、もしくは夏から冬にエネルギーを安価に蓄電して渡すような画期的な蓄電方法の開発が必要になります。
あるいは、発電量が需要を大幅に上回り電気が大量に余る夏季に電気の使い道を探し、電気をお金に換える手段を見つけるというのも可能かもしれません。
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