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地熱発電のメリットとデメリット、わかりやすく解説!

地熱発電は、地下の岩石の中に蓄えられた熱のエネルギーを利用して得られる安定エネルギー源です。
しかしこれらのエネルギーを利用できる場所は限られています。地熱を利用するには、地下に熱水が溜まっていて、井戸を掘ってこれを取り出すことが必要です。

地熱発電は実は歴史が古く、今でも稼働している日本最古の松川地熱発電所は、1966年から半世紀以上も運転をしています。水力と並び、出力の調整が可能かつ再生可能エネルギーという優れたメリットを持つ一方、水力以上の立地の制約というデメリットもあります。地熱発電の仕組みやメリット・デメリット、ポテンシャルについてまとめます。

なお、エネルギー収支や、代替燃料、前回の水力発電については前回以下の記事でまとめています。

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地熱発電の仕組みを簡単におさらい

地熱発電が利用するのは、地下およそ1000~3000mの深さにある熱水です。地下に熱源があるだけでは地熱発電はできません。地熱発電を行うには、「地下に熱水が存在すること」が絶対条件です。この熱水は基本的に元をたどると雨水で、それが地下に染みこんで溜まり、熱せられることで形成されます。

ただし、熱水はそのままですと移動してしまうため、貯留槽としてまとまった量で留まるためには、上層部に硬い岩盤(キャップロック)が必要です。

このように、地熱発電を行うためには、降水があり、マグマによる加熱があり、キャップロックによって貯留槽が形成される必要があります。

そして地下から取り出した蒸気をタービンによって電気に変える、これが地熱発電の仕組みです。ボイラーを使って水を沸かして発電する火力発電と蒸気の得る方法に違いがあります。

立地の偏在が極端、しかし適地には大きな恵み

地熱資源の有無は、「プレート境界に位置しているか」によってはっきりしています。
プレートの境界には拡大境界と収縮境界がありますが、先ほど挙がった国々はどちらかに該当していることがわかります。このエリアは、地球内部の高温層が地表近くまで来ているエリアに当たります。

地熱資源があるエリアでは、クリーンで安定した電源を得られるというメリットを享受することができるのです。

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地熱発電のメリット

再生可能エネルギーであること

地熱発電は化石燃料を燃やさずに電気を得られる再生可能エネルギーです。その再生可能エネルギーの中で比較しても、以下の図のように極めて少ないライフサイクルでの二酸化炭素排出量であることが大きなメリットです。

ただし一つ付け加えておくと、地熱発電で用いる地熱蒸気は純粋な水(H2O)ではありません。その成分は地点によってことなりますが、実は二酸化炭素もある程度の割合含まれているのです。そして一般的に電源の二酸化炭素排出量を求めるとき、この地熱蒸気に含まれる二酸化炭素量は考慮しません。電中研の報告書からもこの部分を含めていないことがわかります。

このあたりに、本質的に二酸化炭素を減らそうとすることと、実態の乖離というものの一端が垣間見れますが、公に再生可能エネルギーを用いていることを示す分には問題はありません。

安定な電源

地熱発電のメリットは、再生可能エネルギーに位置づけられながら、24時間安定的に発電し続けられるベースロード電源であることです。メインの再生可能エネルギーである太陽光発電は晴れのときのみ、風力発電は風が吹いているときにしか発電できませんが、地熱発電のために必要な地熱蒸気は常に出続けます。

厳密には一本の井戸から出る地熱蒸気の流量は小刻みに変動するのですが、複数の井戸から出てくる地熱蒸気を混合し発電量が一定になるようにしています。

加えて一定に発電ができるだけでなく出力を下げることもできます。しかしこのときはその分地熱蒸気を捨てることになるので、その分蒸気が無駄にはなってしまいます。それでも出力がコントロールできるということは非常に扱いやすい電源であることを意味します。

長期に渡って発電が可能

日本最古の地熱発電所は、東北にある松川地熱発電所です。何と半世紀以上も前に建設され現在も運転を続けています。もちろん定期的なメンテンナンスをきちんとしているからこそではあるのですが、このように非常に長く運転することも可能なのが地熱発電のメリットです。

ただし、長期に渡って地熱蒸気が出続けるかという点については、必ずしも頷けるものではありません。東北にある地熱発電所の多くは、現在最大出力に対して半分程度の出力で運転をしており、その理由は運転開始当時より取り出せる蒸気の量が減少してしまっているからです。

一方で九州の地熱発電所は一つあたりのサイズも小さいものの、出力の低下は目立っていません。ここからわかることは、最初に得られた地熱蒸気の量を何十年というスパンで得られ続けるとは限らないこと、計画段階で得られる蒸気に対して少し小さめの発電所とすることで、サステナブルな開発の可能性が高まるということです。

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地熱発電のデメリット

開発のコストが大きい

地熱発電は、地上部にある発電所は石炭火力発電所と非常に近いです。タービンを回すための蒸気を、石炭を燃やして作るのか、地下から取り出すかという違いです。

従って発電の技術自体は枯れた技術であり、スケールメリットがものをいう世界です。しかし地熱発電所の規模は地下の地熱貯留層のサイズに依存するため、火力発電に比べると小さな発電所になりがちです。

以下のコスト試算を見ても、大型化が難しい日本では火力発電以上にコストがかかります。
加えて周辺環境を調査する環境アセスメントや掘削の調査に時間とお金がかかります。特に掘削は掘ってみないと実際に蒸気が出るかはわからない世界であり、博打といっても過言ではありません。
こういった難しさがあるのが地熱発電です。

日本は好立地というメリットがあるが、活用できていない

日本は世界第3位の地熱資源を保有しています。地熱発電に適した場所は、自然公園の中や温泉地に多く存在しています。しかし発電量は世界で9番目です。以下の資源量と発電設備容量を見ると、日本がポテンシャルを活かせてないことが一目瞭然です。

アメリカやフィリピン、アイスランドは既に開発が進んで有望な地点は使いつくされた印象です。昨今開発が盛んなのはケニアやインドネシア、こう見てみると、ポテンシャルのうち経済性良く開発できるのは10~30%くらいのように思えます。日本はわずか2%です。

日本で地熱発電の導入が進まない理由

日本の地熱発電の設備容量の伸びを見ると、以下の図から、1995年頃からピタっと止まっていることがわかります。

これにはいくつか理由がありますが、主な理由は以下の通りです。

  • 予算の削減
    • 「サンシャイン計画」のもと、1980~1997年度にかけて年間130~180億円の予算がつき大きく増えたが、1997年の新エネ法で、従来型の地熱発電方式が促進対象から外され以後予算が大幅に削減された。
  • 環境省による自然公園内での開発規制
    • 適地の地熱発電所の8割が自然公園の中にあると言われている
    • 1972年に環境庁自然保護局と通商産業省公益事業局の間で交わされた覚書で、地熱発電の開発地点が6地点(大沼、松川、鬼首、八丁原、大岳、葛根田)に制限された。
    • 東日本大震災後の2012年、環境省は規制緩和を行い、自然公園の中で第2種及び第3種特別地域については、一定の条件のもとで傾斜掘削による地熱開発が個別に認められる可能性を示した。(これでも不十分)
  • 温泉地に適地がある場合、温泉が枯れるのではと反対される
    • 1948年に制定された温泉法で、温泉地で掘削を行う者に対し、都道府県知事の許可が必要と定められた。
      ➡しかし湧出量等への影響を科学的な根拠に基づく許可・不許可判定は難しく、都道府県は対応に苦慮。
    • 環境省は2012年に「地熱発電の開発のための温泉掘削等を対象とした温泉資源の保護に関するガイドライン」を策定し、都道府県に対して具体的・科学的な判定基準を提示。行政手続きはスムーズ化。
      ➡ガイドラインに従った事前データ収集は相応の時間を費やすため、大きな負担
  • 環境アセスに時間・お金ともにコストがかかる
    • 地質探査、ボーリング調査、発電設備建設に巨額の資金と約10年の歳月を要し、数十年という長期スパンでROIを出していくプロジェクト

この部分は以下の記事がよくまとまってました。

【エネルギー】世界と日本の地熱発電の現況〜日本、アメリカ、フィリピン、インドネシア、アイスランドを中心に〜 | Sustainable Japan | 世界のサステナビリティ・ESG投資・SDGs
地熱発電は、地球が発する熱を利用したエネルギー源です。地球が発する熱は、地球上に均等に存在しているわけではありません。地...

震災以降、そして環境問題に対する意識向上によって確実に規制緩和の方向に動いていますが、まだまだ導入が加速するという状況ではありません。

環境アセスの緩和も小型地熱のケースによる場合が多いのですが、水力同様スケールメリットが大きいため、小型の場合はどうしても補助金ありきになってしまいます。

これだけ科学技術が発展した現代においても、地熱資源が地下に確実にあるかを掘削前に判断することは難しく、「掘ってみないとわからない」というリスクの高い事業になります。加えて、掘削するのに一本(数千m級)5億円近くコストがかかります。

地熱発電の今後

最近の流れは二次利用

地元の理解(特に温泉地)、地元への還元、というのがポイントになってくることもあり、以下のように発電に使ったお湯などを農業等への二次利用する試みが昨今進んでいます。

  • 摩周湖のマンゴー栽培
  • 奥飛騨バナナファーム
  • 別府しいたけ栽培
  • 福島エビの養殖

世界に目を向ければ、アイスランドでは温泉水が町へ送られ、住民の家ではいつでも温泉が出る状態、暖房にも使われています。 そして発電後のお湯を使ったブルーラグーンが有名です。

地熱水は色んな成分を含んでおり、ここに含まれるシリカは低温になると析出します。温泉の場合はこの写真のように肌に良い成分として活躍しますが、地下に地熱水を戻す場合は、配管を詰まらせる原因にもなり二次利用にはこうした観点から課題があります。
ちなみに、地熱水を地下に戻さない場合は、地下の貯留層の枯渇を促進するため推奨されません。

未来は高温岩体発電

再エネかつ安定電源、日本はポテンシャルもあるという地熱ですが、ここまで見てきたところを総合すると日本で主力電源を担うハードルは高く、世界を見てもそうなれる国は限られていることがわかります。

しかし、2050年くらいになると技術革新によって「高温岩体発電(Enhanced Geothermal Energy)」という新しい発電方法が確立されると言われています。ちなみにこれを題材にした小説もあり、地熱のロマンが詰まっています(文末で紹介)

現在主流の地熱発電は、地下の高温の熱水を取り出すことで発電していますが、高温岩体発電では、地上から地下の高温の岩盤へ水を送り、地下で高温に温めた熱水をまた地上へ戻し発電、これを循環させる発電方法です。

地球はどこでも地下に掘れば基本的には高温になっていきます。そこに水がなくても発電できるため、場所を問わない夢の発電方法なのです。掘削コストが高かったり、地下に注入した水がちゃんと戻ってこなかったりと技術的な課題はまだまだあるのですが、実用レベルへ進化していくことを個人的にとても期待しています。

EGSのイメージをつかむ良い動画があったので載せておきます。

P.S. 未来の地熱に関わるおすすめ本のご紹介

『マグマ (角川文庫)』真山 仁 (著)

ハゲタカで有名な真山仁さんの小説です。オペレーションZ、そしてこのマグマあたりは個人的にとても好きな本です。小説という形ではあるのですが、社会問題を捉えた題材で訴えかけてくるものがあります。

このマグマは、先に取り上げた高温岩体発電を題材にし、その実用化に向けて奔走する人たちを描いた小説です。小説ということもあり、政治的な話も多いですが楽しく読めて

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