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「エネルギー大転換」を掘り下げる「水力・地熱」編

前回から引き続き「日本化学未来館」で開催されている「エネルギー大転換」を題材にエネルギーについて掘り下げていきます。

初回の記事はこちら↓

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4.水力と地熱

水力と地熱は、安定して得られるエネルギー源です。水力は地球上の水の循環によって生じ、地熱は地下の岩石の中に蓄えられた熱のエネルギーを利用しています。

しかしこれらのエネルギーを利用できる場所は限られています。水力発電には大きな川もしくは流れの速い川が必要です。地熱を利用するには、地下に熱水が溜まっていて、井戸を掘ってこれを取り出すことが必要です。

今後どのように水力を活用していけばいいでしょうか。

  • 水力発電を簡単に増やせるような法律を制定する
  • 大規模な水力発電所の建設を制限する
  • 地域で運用される小規模な水力発電所建設に投資する
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水力

日本はまだまだ水力のポテンシャルがある

国内には700基の水力発電用のダムがあります。現在、全電力の8%を賄っていますが、運用方法の工夫やかさ上げ工事発電電力量を増やせる可能性があります。

加えて、河川や農業用水などの水の流れをそのまま利用する中小水力発電の資源量を合わせると、水力発電には現在の2.6倍のポテンシャルがあります。

水力発電が日本を救うー今あるダムで年間2兆円超の電力を増やせる 竹村公太郎

ダムの嵩上げは有望

そもそもダムには複数の用途があります。

  • 家庭や工場、農業、発電に水を使うのが「利水」
  • 川の堤防の決壊から守るのご「治水」

双方の目的を果たそうとするのが多目的ダムになります。国土の小さい日本では、2つの矛盾した目的を持つ多目的ダムが多く、河川法の制約でダムの容量の半分までしか水を貯めることができません。例えば、治水のために雨量の多い時期に放水して敢えて貯めないということをします。

そこでこの本の中で挙げられているのが、ダムの嵩上げです。は面白いなと思うのは、発電量を倍に増やしても、新設の「工事費用分」程度でまかなえるという記載です。

はて、新設分丸々かかるのか?そりゃ高くないか?と思うのですが、ダム建設にあたっては、2/3程度が周辺の村の水没の補填費用に充てられるようで、工事費だけで済むなら安いもののようです。

以下のリンク先を見ていると、建設中も既存のダムとして機能を損なうわけにはいかないため、ダムを運用しながら工事しなければならない点が技術的な課題になるようです。

http://www.pwrc.or.jp/thesis_shouroku/thesis_pdf/1402-P006-009_enomura.pdf

多目的ダムの性質上、有効活用しきれていない場合はダムの嵩上げは有効だと思います。そうでない場合も、揚水発電で電池を貯める用途まで拡張すると既存ダムの活用の幅は広いと感じました。

中小水力の伸び

一般水力(揚水発電除く)の2016年における設備容量は22,724[MW]、発電所数は2,287、そのうち1万kW以下の中小水力の設備容量と発電所数の推移は以下の図の通りです。

自然エネルギー白書2017: https://www.isep.or.jp/jsr/2017report/chapter4/4-4

こうみると全体に占める中小水力の割合は、設備容量ベースでみると838万kW/2272万kW=37%です。200kW以下のいわゆるマイクロ水力・小水力に分類される部分は、FIT制度移行急速に基数を伸ばしていますが、全体にしめる設備容量はゼロに等しい水準しかありません。

一方で1000~10000kWクラスの伸びが近年の水力全体の成長を牽引していると言えそうです。

小水力の課題はコストと水利権

もう一つのポテンシャルは小水力です。こちらは一番の課題はコストだと思います。以下は前回も出した発電方法毎の発電コストになりますが、一般水力と比べ、小水力は発電量あたり2~2.5倍程度コストが増えることがわかります。やはり水力は火力や原子力と同じようにスケールメリットが出る発電方法なのでこの点はやむを得ません。

長期エネルギー需給見通し小委員会に対する 発電コスト等の検証に関する報告(案)
総合資源エネルギー調査会  発電コスト検証ワーキンググループ(第6回会合)平成27年4月
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/006/pdf/006_05.pdf

また水利権の問題も無視できません。洋上風力に通ずるところもあると思うのですが、河川や海といった公共の場は、自らの土地とすることができないため、水利用、場所利用のための権利取得が非常に大変です。

2013年の河川法改正により、水利権取得のための手続きは簡素化されたようですが、小水力の場合農業用地といった何かに既に使われている場所に追設するケースが多いため、既存の権利者との調整で難航することが多々あるようです。

冒頭取り上げたとおり、中小水力のポテンシャルは大きいため、スケールメリットが大きい水力発電において、如何に小さいサイズでも経済性を出せるよう標準化、コストダウンしていくかがポイントだと思われます。

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地熱

日本はポテンシャルは高いが活用できていない

日本は世界第3位の地熱資源を保有しています。地熱発電に適した場所は、自然公園の中や温泉地に多く存在しています。しかし発電量は世界で9番目です。以下の資源量と発電設備容量を見ると、日本がポテンシャルを活かせてないことが一目瞭然です。

地熱資源開発の現状について:平成29年6月 資源エネルギー庁 資源・燃料部
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/pdf/022_04_00.pdf

アメリカやフィリピン、アイスランドは既に開発が進んで有望な地点は使いつくされた印象です。昨今開発が盛んなのはケニアやインドネシア、こう見てみると、ポテンシャルのうち経済性良く開発できるのは10~30%くらいのように思えます。日本はわずか2%です。

立地の偏在が極端

地熱資源の有無は、「プレート境界に位置しているか」によってはっきりしています。
プレートの境界には拡大境界と収縮境界がありますが、先ほど挙がった国々はどちらかに該当していることがわかります。このエリアは、地球内部の高温層が地表近くまで来ているエリアに当たります。

「国内外の地熱エネルギー利用」 2019年度 第1回地熱発電・熱水活用研究会 一般財団法人エンジニアリング協会 塩﨑 功
https://www.enaa.or.jp/?fname=gec_2019_1_2.pdf

プレートの動きまで踏み込んだ詳しい解説が以下のサイトにございます。

地熱学会:地熱エネルギー入門:地熱資源の性質


地熱発電が利用するのは、地下およそ1000~3000mの深さにある熱水です。地下に熱源があるだけでは地熱発電はできません。地熱発電を行うには、「地下に熱水が存在すること」が絶対条件です。この熱水は基本的に元をたどると雨水で、それが地下に染みこんで溜まり、熱せられることで形成されます。

ただし、熱水はそのままですと移動してしまうため、貯留槽としてまとまった量で留まるためには、上層部に硬い岩盤(キャップロック)が必要です。

地熱資源開発の現状について:平成29年6月 資源エネルギー庁 資源・燃料部
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/pdf/022_04_00.pdf

このように、地熱発電を行うためには、降水があり、マグマによる加熱があり、キャップロックによって貯留槽が形成される必要があります。

日本で地熱発電の導入が進まない理由

日本の地熱発電の設備容量の伸びを見ると、以下の図から、1995年頃からピタっと止まっていることがわかります。

これにはいくつか理由がありますが、主な理由は以下の通りです。

  • 予算の削減
    • 「サンシャイン計画」のもと、1980~1997年度にかけて年間130~180億円の予算がつき大きく増えたが、1997年の新エネ法で、従来型の地熱発電方式が促進対象から外され以後予算が大幅に削減された。
  • 環境省による自然公園内での開発規制
    • 適地の地熱発電所の8割が自然公園の中にあると言われている
    • 1972年に環境庁自然保護局と通商産業省公益事業局の間で交わされた覚書で、地熱発電の開発地点が6地点(大沼、松川、鬼首、八丁原、大岳、葛根田)に制限された。
    • 東日本大震災後の2012年、環境省は規制緩和を行い、自然公園の中で第2種及び第3種特別地域については、一定の条件のもとで傾斜掘削による地熱開発が個別に認められる可能性を示した。(これでも不十分)
  • 温泉地に適地がある場合、温泉が枯れるのではと反対される
    • 1948年に制定された温泉法で、温泉地で掘削を行う者に対し、都道府県知事の許可が必要と定められた。
      ➡しかし湧出量等への影響を科学的な根拠に基づく許可・不許可判定は難しく、都道府県は対応に苦慮。
    • 環境省は2012年に「地熱発電の開発のための温泉掘削等を対象とした温泉資源の保護に関するガイドライン」を策定し、都道府県に対して具体的・科学的な判定基準を提示。行政手続きはスムーズ化。
      ➡ガイドラインに従った事前データ収集は相応の時間を費やすため、大きな負担
  • 環境アセスに時間・お金ともにコストがかかる
    • 地質探査、ボーリング調査、発電設備建設に巨額の資金と約10年の歳月を要し、数十年という長期スパンでROIを出していくプロジェクト

この部分は以下の記事がよくまとまってました。

【エネルギー】世界と日本の地熱発電の現況〜日本、アメリカ、フィリピン、インドネシア、アイスランドを中心に〜 | Sustainable Japan | 世界のサステナビリティ・ESG投資・SDGs
地熱発電が適した国  地熱発電は、地球が発する熱を利用したエネルギー源です。地球が発する熱は、地球上に均等に存在しているわけではありません。地球中心部の熱源は、プレートの境目に付近に多く表出しており、ホットスポットと呼ば

震災以降、そして環境問題に対する意識向上によって確実に規制緩和の方向に動いていますが、まだまだ導入が加速するという状況ではありません。

環境アセスの緩和も小型地熱のケースによる場合が多いのですが、水力同様スケールメリットが大きいため、小型の場合はどうしても補助金ありきになってしまいます。

これだけ科学技術が発展した現代においても、地熱資源が地下に確実にあるかを掘削前に判断することは難しく、「掘ってみないとわからない」というリスクの高い事業になります。加えて、掘削するのに一本(数千m級)5億円近くコストがかかります。

最近の流れは二次利用

地元の理解(特に温泉地)、地元への還元、というのがポイントになってくることもあり、以下のように発電に使ったお湯などを農業等への二次利用する試みが昨今進んでいます。

  • 摩周湖のマンゴー栽培
  • 奥飛騨バナナファーム
  • 別府しいたけ栽培
  • 福島エビの養殖

世界に目を向ければ、アイスランドでは温泉水が町へ送られ、住民の家ではいつでも温泉が出る状態、暖房にも使われています。 そして発電後のお湯を使ったブルーラグーンが有名です。

地熱水は色んな成分を含んでおり、ここに含まれるシリカは低温になると析出します。温泉の場合はこの写真のように肌に良い成分として活躍しますが、地下に地熱水を戻す場合は、配管を詰まらせる原因にもなり二次利用にはこうした観点から課題があります。
ちなみに、地熱水を地下に戻さない場合は、地下の貯留層の枯渇を促進するため推奨されません。

未来は高温岩体発電

再エネかつ安定電源、日本はポテンシャルもあるという地熱ですが、ここまで見てきたところを総合すると日本で主力電源を担うハードルは高く、世界を見てもそうなれる国は限られていることがわかります。

しかし、2050年くらいになると技術革新によって「高温岩体発電(Enhanced Geothermal Energy)」という新しい発電方法が確立されると言われています。ちなみにこれを題材にした小説もあり、地熱のロマンが詰まっています(文末で紹介)

現在主流の地熱発電は、地下の高温の熱水を取り出すことで発電していますが、高温岩体発電では、地上から地下の高温の岩盤へ水を送り、地下で高温に温めた熱水をまた地上へ戻し発電、これを循環させる発電方法です。

地球はどこでも地下に掘れば基本的には高温になっていきます。そこに水がなくても発電できるため、場所を問わない夢の発電方法なのです。掘削コストが高かったり、地下に注入した水がちゃんと戻ってこなかったりと技術的な課題はまだまだあるのですが、実用レベルへ進化していくことを個人的にとても期待しています。

EGSのイメージをつかむ良い動画があったので載せておきます。

Enhanced Geothermal Systems (EGS)

P.S. 未来の水力と地熱に関わるおすすめ本のご紹介

水力

『水力発電が日本を救うー今あるダムで年間2兆円超の電力を増やせる』竹村公太郎 boompanchのレビュー – ブクログ

boompanchさんのレビュー
boompanchさんの竹村公太郎『水力発電が日本を救うー今あるダムで年間2兆円超の電力を増やせる』についてのレビュ...

地熱

『マグマ (角川文庫)』真山 仁 (著)

ハゲタカで有名な真山仁さんの小説です。オペレーションZ、そしてこのマグマあたりは個人的にとても好きな本です。小説という形ではあるのですが、社会問題を捉えた題材で訴えかけてくるものがあります。

このマグマは、先に取り上げた高温岩体発電を題材にし、その実用化に向けて奔走する人たちを描いた小説です。小説ということもあり、政治的な話も多いですが楽しく読めて

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