植物は人間にとって、食べ物にもエネルギーにもなるありがたい存在です。植物からは固体(木質ペレットなど)、液体(バイオエタノールなど)、気体(メタンガスなど)など様々な状態の燃料を作ることができます。
植物資源は、使い勝手のよさでは化石燃料と同等でありながら、化石燃料ほどCO2を出しません。しかし利用できる土地には限りがあることを考えると、サステナブルな形で森林や畑から得ることが大切です。
今回はバイオマス発電をその原料について掘り下げながらまとめていきます。
なお、エネルギー収支や、代替燃料については以下の記事でまとめています。
バイオマス発電の原料は木質ペレットだけじゃない、多様なバイオマス
植物と動物から得られる生物資源のことを「バイオマス」と呼びます。食料やものづくりの原材料として利用した後、廃棄物を別のものに再利用し、さらに燃料としてエネルギー利用、というように、繰り返し利用してその力を使いつくすことができます。
国内には未利用のバイオマスが多く残されており、その有効活用が求められています。バイオマスというと木質ペレットを燃やして発電するバイオマス発電が思い浮かびますが、バイオマスと一口に言っても様々な種類があることがわかります。
こうして一覧表を見ていると、全体でも利用率は70%と高く、かつ発生抑制の取組みによって廃棄物系バイオマスは中長期的には減少傾向であることが特徴的です。
廃棄物系バイオマスの中で目立って利用率が低いのは「食品廃棄物」ですが、量としても少ないですし、これは二次利用というよりもフードロス削減の取組みを、ITを駆使して取り組んだ方が、筋がいいと思います。よって廃棄物系の更なるエネルギー利用は優先度が低いと思われます。
活路は「未利用系バイオマス」ですね。これももう少し詳しくみていきます。
こう見ていくと、使われていないものには使われていないだけの理由があると改めて思わされます。間伐材などはまさに未利用なわけですが、回収して運ぶためのコストが高いから放置されてしまうことがわかります。地産地消で小さなサイズでバイオマス利用が成り立つかが肝になりそうです。
バイオマス発電の伸び
バイオマス発電の伸びは以下の図のように右肩上がりです。ちなみにこの容量はバイオマス燃料の熱量比60%程度以上の場合で構成されており、石炭火力発電の混焼は含んでいません。混焼というのは通常数%程度燃料の中にバイオマスを混ぜている火力発電です。
このグラフを見ると、2012年の固定価格買取制度の施行後の木質バイオマスの伸びが大きいことがわかります。
https://www.isep.or.jp/jsr/2017report/chapter4/4-6
この固定価格買取制度ですが、バイオマス発電の場合は複雑です。下図のように燃料によって買取価格が異なるからです。未利用材に2つ価格があるのは、発電出力が2000kWを超えるかの違いです。(発電出力が大きいほどスケールメリットが出て、買取価格は下がる)。
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/shin_energy/biomass_sus_wg/pdf/001_03_00.pdf
この燃料のうち主戦力となるのが、一般木材等・バイオマス液体燃料です。FIT認定済の内訳をみると、そのうちほとんどがPKSとパーム油であることがわかります。
PKSというのは「ヤシ殻」です。もともと廃棄されているものですが、発熱量が非常に高く、そのまま放置をすると火災の恐れがある材料のたけ、世界中からバイオマスの燃料として注目を受けています。
日本にはヤシは基本的にないので、インドネシアやマレーシアから調達してくることになるのですが、近年は価格が高騰気味です。
そしてパーム油は以下のように発電燃料としては様々な問題を抱えています。
- 農園開発がボルネオ島などで熱帯林減少の最大要因となっていること
- 泥炭林開発などにより大量の温室効果ガスを排出すること
- 土地をめぐる紛争や深刻な労働問題を引き起こしていること
- 食料と競合すること
それでも国際的に大量に流通している商品であるため燃料調達の制約が少なく、発電形態もすでに確立しているディーゼル発電であることから、パーム油がバイオマス発電燃料として扱いやすいと見られています。
未利用バイオマスを使った発電というイメージを持ってバイオマス発電を見ると、実態は輸入燃料頼みのところが多く、色々と問題もはらんでいることがわかってきました。
またエネルギーの安全保障という観点から見ても他の再エネと違って地産地消ではないですし、輸入に頼っている部分は化石燃料に近いものがあります。
国内の再エネNo.2、熱利用もしたい
2018年の伸び率を見ると、太陽光は20%と圧倒的ですが、次に来るのがバイオマスの7%、風力の5%が続きます。
バイオマスで発電するとエネルギー効率は3割程度しかないようです。つまり残りは熱として排出されてしまいます。ここを熱利用もできるようにすることが、バイオマス発電を考えたときのポイントとなるかもしれません。
地産地消を基本とすると、山地で熱需要を見つける必要があり、難しそうです。地域の温泉設備へ熱供給という事例があるようです。
バイオマス発電は、意外とCO2を排出する
燃料が燃やされ、CO2が大気に放出されるバイオマス発電が再エネと言われる所以は、もともと空気中にあるCO2を吸収し光合成によって得られた有機物を燃やすため、CO2が循環しているからです。
しかし、バイオマスの栽培、加工、輸送には化石燃料が必要で、バイオマス燃料を使うことでかえってCO2の排出量が増えてしまう場合もあります。
下図は僕も見てショックを受けたのですが、パーム油は原産国によって異なるものの、良くてLNG火力と同等、悪いとLNG火力よりもCO2排出量が多いと言う状況です。PKSはかなり少ないです。
補助金(FIT)をつけてバイオマス発電を導入して、かえってCO2が増えていたんじゃ何のためにやっているのかわかりませんね。裏を返すと、石炭はともかく火力といってもLNG火力はCO2排出力が多くないということかもしれません。
木材のカスケード利用の拡大がバイオマス発電拡大につながる
木材のバイオマス発電への利用を考えるとき、林業も深くかかわってきます。木材の利用の基本は「カスケード利用」です。まっすぐで大きな角材は丸太の中心からしか得られませんので、最初に切り出されます。残りの用途の木材も順次用途毎に切り出され、最後に残るのがバイオマス発電用の燃料チップになるのです。
http://www.japic.org/report/pdf/national_strategy_group17.pdf
基本的にバイオマス発電の燃料として燃やすのは最後に残ったカス、ということなのです。工場の残材や建設発生木材は、既にほとんどがバイオマス利用されているため、木質チップを増やすためには、木材利用全体の拡大、すなわち林業自体の発展が重要になります。
今回はバイオマス発電についてみてきました。従来の火力発電の技術を使いながら、燃料を変えるだけで再エネ導入できますし、何といっても天候に左右されず発電量が安定することがメリットです。
本来的には、未利用の廃棄物や未利用材などを使って地産地消でバイオマス利用ができることが理想だと思うのですが、実態としては固定価格買取制度を利用し、経済的な輸入バイオマス燃料に頼ったバイオマス発電が主流になってしまっています。
固定価格の年々の下落や燃料需要の高まりもあり、この流れはひと段落しつつあります。この先、本来的なバイオマス利用を伸ばせるかが注目です。
海に近いサイドは洋上風力、平地は太陽光、となると森林地域はバイオマスでしょう。上手く地域電力の担い手として成長してほしいです。
コメント