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「エネルギー大転換」を掘り下げる「エネルギー貯蔵」編

だいぶ長丁場になってきましたが、引き続き「日本化学未来館」で開催されている「エネルギー大転換」を題材にエネルギーについて掘り下げていきます。

初回の記事はこちら↓

私たちは、これまで石炭や石油、ガスを燃やすことでいつでも必要なときに電気と熱を手に入れてきました。これらの化石燃料は、遥か昔に地球に降り注いだ太陽光エネルギーを貯蔵してできたものです。

再生可能エネルギーである太陽光や風力エネルギーは発電量が安定しないため、他のかたちに換えて貯蔵しておき、必要になったら使うという新しい仕組みが必要です。

エネルギー貯蔵技術には、電気や熱の形にしておくもの、化学エネルギーのかたちにしておくもの、機械的な運動エネルギーのかたちにしておくものなど、様々な種類があります。

以前も書きましたが、電力は「同時同量の原則」というものがあり、発電量と消費量を一致させないと停電してしまいます。

エネルギー貯蔵装置を中心に「同時同量」を実現するための「調整力」についてまとめます。

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様々な種類の二次電池

繰り返し充放電できる二次電池にはたくさんの種類があります。その中でも最も汎用性が高く、モバイル端末中心に我々の身近な機械の電源を支えているのがリチウムイオン電池です。

以下の表で二次電池の違いをまとめていますが、数字の厳密性は問わないでください。例えばリチウムイオン電池一つとっても使う材料によって性能が大きく変わりますし、メーカーのカタログ値も大きく異なります。

厳密性を求めると細分化の際限がないので、あくまで電池ごとの特徴をつかむためのオーダー感を見て頂けたらと思います。

リチウムイオン電池がメイン

二次電池は世界で10兆円ほどの市場です、あまり大きくないですね。その8割以上がリチウムイオン電池です。

その用途して一番大きいのはEVです。次いでモバイル端末のような小型の民生用、ここまでこのブログで触れてきたような電力の調整力としてのESS用途というのはわずかしかありません。これはまだまだ市場ができていないことを示しています。


リチウムイオン電池の特徴はとても使いやすくてバランスがいいことです。エネルギー密度が高いために電池を小型化でき、モバイル端末に入れても可搬性がいいですし、充放電効率もいいのでロスが少なく、メモリー効果も起きない、寿命も10年も使っているとへたってくるけど、数年では問題ありません。

ESS用途で拡大していかない理由としてはコストが高いことです。逆に言えば既に伸びている分野は今のコスト感で十分採算が取れているということだと言えます。

下図がリチウムイオン電池のコストの内訳ですが、Profit Marginを除くと7割ほどが材料費になることがわかります。これはつまり調達力が物を言う世界であり、大量に作ることで初めて安く作れるようになるわけです。

大方の予測のようにこれからも右肩上がりで販売量が増えていけば、それに従いコストも下がっていくことになります。

Electricity storage and renewables: Costs and markets to 2030
https://www.irena.org/publications/2017/Oct/Electricity-storage-and-renewables-costs-and-markets

リチウムイオン電池を中心とした蓄電池について非常に勉強になるサイトがあるのでご紹介しておきます。

電池の基礎知識、専門用語、リチウムイオン電池の設計・評価関連の知識

その他に列挙した電池は、主にESS用途で、特定の条件下で有効なオプションになります。その特定の条件にフォーカスして列挙していきます。

古くから使われてきた巨大な揚水発電

揚水発電は水の位置エネルギーを利用した水力発電を逆手に取り、水をくみ上げることで水を高い位置に貯めることでエネルギーを貯める方法です。

ダムを建設できるところ、という厳しい立地の制約があります。

それでも非常に安価で長寿命な蓄電池として機能しているため、建設が可能であれば第一オプションとして考えられます。日本でも、深夜料金が安い時間帯に水を高いところにあげておき、昼間電力需要が高い時に発電するという形で利用されています。

安価で大容量向き、ただし高温キープが必要なNAS電池

日本ガイシが開発した、セラミックス技術を使った電池です。以前カンブリア宮殿で取り上げられていました。

NAS電池は、文字通り、負極にナトリウム、正極に硫黄、両電極を隔てる電解質にファインセラミックスを用いて、硫黄とナトリウムイオンの化学反応で充放電を繰り返す蓄電池です。フォードが1960年代に開発した技術だそうですが、実用化できたのは日本ガイシだけだそうです。

NAS電池とは
日本ガイシの「NAS電池とは」について紹介します。日本ガイシは社会の基盤を支え、環境課題の解決に役立つ製品を開発、提供し続けます。


大容量のコンテナサイズの規模で蓄電池を導入する場合、リチウムイオン電池より現状安価なため、ESS候補としては有力です。

単電池のショートにより発火事故が起こり、電池を全て回収、600億円の損失を出したそうですが、その後は事故は起こしていないようです。材料を見れば明らかですが、Naはそもそも自然発火する材料で扱いが難しいです。そしてNAS電池は常に300℃程度にキープし続ける必要があり、保守員も必要で扱いが難しいのが課題です。

リチウムイオン電池と比べると、レート特性はよくありません。これは高出力が得意ではなく、長い時間かけて充放電するような用途向きということです。

NAS電池の火災事故の原因、安全強化対策と操業再開について
日本ガイシの企業情報、製品情報、IR情報などに関する最新情報を掲載しています。

安全で応答性の高い、レドックスフロー電池

大容量向きで、日本企業が開発したもう一つの蓄電池がレドックスフロー電池です。こちらは、住友電工が開発した電池です。

レドックスフロー電池|製品情報|住友電気工業株式会社
住友電工のレドックスフロー電池をご紹介いたします。

長寿命で応答性にも優れるため、系統用として有用なのですが、エネルギー密度が低く大きな土地を必要とします。また、レアメタルのバナジウムを使用するため、低コスト化に課題があります。

NAS電池と比べると安全性に関しては、不燃性の材料を使用しているため強みがあります。土地が広大でかつ応答性が要求されるような運用のESSで使えそうです。以下大規模な実証実験の報告書ですが、応答性に関しての結果は良好に見えます。北海道で風力と組み合わせるような運用には効果的、あとはコストでしょう。

http://www.nepc.or.jp/topics/pdf/180320/180320_9.pdf

機械式の蓄電技術は普及の足音はまだしない

重量物を回転させ、その回転エネルギーとして蓄電するフライホイールや、空気を圧縮することで蓄電する圧縮空気電池といった機械式の蓄電池もアイデアとしてありますが、採算レベルまで来ているような情報は目にしてません。

リチウムイオン電池が伸びている、つまりこれからもリチウムイオン電池のコストがどんどん落ちていく現状では、ここで勝負を挑んでいくのは難しいのではないかと思われます。

他にもスタートアップを見てみると、以下のように面白い蓄電方法だなと思うような会社もあります。

Fly Wheel

フライホイールは回転系の慣性モーメントを利用した機構に用いられる機械要素のひとつです。慣性モーメントは周りにくさ、周っているときの止まりにくさ、と捉えると理解しやすいかと思います。

下図のフライホイールは円筒型の重量物で、回転しにくいのですが、エネルギーを投じて回転すると、慣性モーメントという形でエネルギーを貯めこめます。放電するときは、発電機をフライホイールの回転力で回し電気に変換します。

内部を真空にすることで回転時の空気抵抗を減らすことができます。ロスはモーターと発電機による変換効率と回転を支える軸受け(ベアリング)の部分の摩擦損失です。

構造は単純で、どのくらいエネルギーが残っているのかという残量の把握が容易です。

ELECTRICITY STORAGE AND RENEWABLES: COSTS AND MARKETS TO 2030
https://www.irena.org/-/media/Files/IRENA/Agency/Publication/2017/Oct/IRENA_Electricity_Storage_Costs_2017.pdf

Gravity Storage – ENERGY VAULT

クレーンで重量物を持ち上げ、積み上げることで蓄電、持ち上げた重量物を下すことで放電という、位置エネルギーを用いた蓄電方法です。

アイデアとしてとても面白いです。何を重量物として用いるかという部分で、ここに廃材を用いることができると、ごみ処理の問題と合わせてメリットがあります。

Startup CH:Energy Vault SA
https://www.startup.ch/EnergyVault
About Us - Energy Vault

Gravity Storage – Heindl Energy

地下に巨大な円筒状にに岩石をくり抜き、これを下から持ち上げることで蓄電、そのエネルギーを開放することで放電、という位置エネルギーを用いた蓄電方法です。

アイデアとしてとても面白いです。今後GWh級の巨大なエネルギー貯蔵を超安価に行いたいというようなニーズが出てきたら可能性があるかもしれません。

Climate & Environment at Imperial:Gravity – the solution to energy storage?
https://granthaminstitute.com/2018/07/09/gravity-the-solution-to-energy-storage/
Gravity Storage - a new technology for large scale energy storage
Learn more about Gravity Storage, a groundbreaking technology for energy storage in GWh scale. Make renewables 24/7 available!

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需要側を調整するDemand Response(DR)

調整力という観点では、単純に電気を貯めるというのが簡単に浮かぶソリューションで、ここまで色んな二次電池を見てきました。

他にも、他のエリアと電気を融通し合うという方法がありますが、これは既に前回系統の話の中で触れました。


これ以外にも、全く逆な発想として電気を使う側、すなわち需要(Demand)を調整するという考え方があります。これがDR(Demand Response)です。

電力消費者にインセンティブを与え、電気の使用を抑える、もしくは、増やすように促す手法です。

大きく分けると「ピークカット型」と「常時バランス型」の二種類の方向性があります。

最終手段としてのピークカット型

例えば発電所が非常時に見舞われて停止してしまった場合や、異常気象で想定外に暑い、寒い、といったイレギュラーなシチュエーションで、大きく発電量が減少、もしくは需要量が増加した場合に、需要(ピーク)を減らす(カット)する手段がこちらです。

減らしてくれた量に応じて経済的な見返りがあります。電力使用量が多い産業界がメインターゲットであり、具体的に言うと工場に一時稼働を停止してもらうようなことを意味するため、非常時の手段という位置づけだと理解しています。

最も電力のバランスが崩れる状況を想定して、発電も蓄電も設備を用意しなければならないわけですが、そういった状況は滅多にあるわけではないため、限られた状況のために設備を用意するのはコストの増加を招きます。

しかし、DRによるピークカットというオプションを持っていることができれば、固定費(設備投資費用)を抑えることができ、まわりまわって電力消費者の利得にもつながります。

デマンドレスポンスとは:その仕組みとビジネスチャンス
2016年4月からの電力自由化を控え、電力業界の動きが活発になってきています。その中で昨今デマンドレスポンスという言葉が良く出てきます。本レポートではこのデマンドレスポンスについて詳しく紹介していきます。

再エネの変動に合わせた生活をする常時バランス型

一方で、バランス型のDRというのは、今までの化石燃料を主体とした電力システムからは根本的に思想が変わります。

需要に合わせて発電量を調節するのではなく、供給に合わせて需要を調整するという発想です。火力発電が主体の電力システムであれば、発電量のコントロールは容易なわけですが、もし再エネ(太陽光&風力)を主体とするならば、二次電池による調整だけで行おうとするとコストがかかります。

従って、消費サイドを発電量に合わせようという発想になるのです。いわば太陽と共に生活するといった形でしょうか。

夜間の電力料金が安い時間に給湯器で温水を作っておくようなシステムは今でも導入されていますが、発想としてはこれに近いですね。

家庭の中でいつ動かしてもいいような電子機器は電気が豊富な時間に動かす、これをシステムで自動で行うような世界観がイメージされます。

再エネを中心に据えつつ、不安定さをなるべく許容する生活を目指したとき、テクノロジーを使ってできる限り需要を供給に合わせることができるとストレスを減らせると思います。

 

 

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コメント

  1. 様々な技術がわかりやすく紹介されていて、これまた、使わせてもらえそうな充実ページですね。今後の進むであろう道の方向性、未来の予測をどう考えるのか、も聞きたいところです。

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